GitHub のプロフィールに並ぶ、あの緑のマスのこと、知ってますか。
コントリビューショングラフ(エンジニア界隈では「草」と呼ばれたりします)というやつで、毎日のコミット数に応じて濃淡が変わる、過去1年の活動量カレンダーですね。採用担当者が就活生の GitHub を見るときに、真っ先にチェックされる場所でもあります。
いま、そこに並ぶ緑のマスが全部AI製という就活生が、現実に出てきているらしいんです。
先日書いた「Claude Codeはいつの間にか『ツール』じゃなくなっていた」の続編的な話になります。AIコーディングが個人のツールからインフラへと移った結果、いちばん最初に影響を受けるのは、じつはまだ仕事をしていない人たち — つまり就活生の履歴書と、彼らを評価する採用現場でした。
今回は、米国の採用現場は大きく動いているのに、日本だけが沈黙しているという不思議な構造と、そのギャップを下から突き破ろうとしている日本の候補者たちの話をします。
GitHubコミットの4%がClaude Code製、という数字
まず、数字で現状を押さえておきます。
botcommits.dev というサイトがあって、GitHub 上のAI生成コミットをリアルタイムで追跡しています。ここによれば、Claude Code 名義のコミットは13ヶ月で月24件から月間520万件超に伸びた。SemiAnalysis の集計では、公開 GitHub コミットの約4%が Claude Code 由来、1日あたり13万5000件以上。
そしてここが意地悪なポイントなんですが、Copilot・Cursor・Gemini CLI はコミットレベルの帰属マーカーを残さない。つまり見えているのは氷山の一角で、帰属マーカー付きの Claude Code コミットだけで公開コミットの 4% を占めているとなると、コード量ベースで見た実際のAI生成比率はさらに高いはずです。
要するに、GitHubはもうかなりの割合で「人間とAIの共作プラットフォーム」になっているわけです。
米国: Meta、Google、Ripplingが面接でAIを解禁した
この流れを受けて、米国の採用現場は動き出しています。
| 企業 | 面接時のAI使用ポリシー | 補足 |
|---|---|---|
| Meta | 2025年10月からAI付きコーディング面接を導入 | 実際の開発環境に近づける狙いと解説されている |
| AI対応面接を全エンジニアリング職へ「積極的に展開」 | 方針を公式発表 | |
| Rippling | 面接で ChatGPT・GitHub Copilot の使用を許可済み | 既に実運用中 |
Salesforce の Marc Benioff に至っては、2025年に「今年はソフトウェアエンジニアを採用しないかも」と発言して物議を醸しました。議論はすでに「面接でAIを使っていいか」を通り越して、「AIで置き換わるのか、AIを使える前提で測るのか」のフェーズに入っている。
ただし、米国の採用側も「丸投げ」を評価しているわけではありません。Hello Interview の分析によれば、企業が見ているのは「AIを使うかどうかではなく、どう使うか」。AIを”ガイド”する能力、つまり課題を分解し、判断し、統合する力が問われている。
評価軸が、実装そのものから、AIを通した問題解決プロセスへ移っている — これが米国側のコンセンサスです。
日本: 大手で「面接AI使用OK」を明示した企業は、ほぼゼロ
じゃあ日本はどうなっているのか。ここからが今回の記事の本題です。
結論から言うと、日本の大手IT・テック・SIerで「面接/コーディングテストで候補者のAI使用を許可・推奨する」と公式に明言している企業は、現時点でほぼ見当たりません。
主要各社の「社内AI推進」と「面接AI使用ポリシー」の対比がこちらです。
| 企業 | 社内AI推進の公表 | 面接時のAI使用ポリシー |
|---|---|---|
| メルカリ | 社員の95%がAIツール利用/コード生成の約70%をAIが担当 | 非公開 |
| DeNA | 南場会長「AIオールイン」宣言、内定者からAI教育 | 明言なし |
| NTTデータ | 2027年度までに全社員約20万人へ実践的な生成AI人財育成を拡大 | 未公表 |
| サイバーエージェント | 採用FAQに記載なし | 不明 |
| リクルート/楽天/LINEヤフー | 採用説明会でも言及なし | 不明 |
| Sansan/freee/SmartHR/マネーフォワード | 合同説明会でも明示なし | 不明 |
社内は全力で動いているのに、採用現場のスタンスだけがブラックボックス。日本の大手は「社内業務ではAIを使います」と堂々と言うのに、「応募者の皆さん、面接でAIを使っていいですよ」とは誰も言わない。この非対称は、かなり奇妙です。
日本の面接SaaSは「検知」方向に舵を切っている
さらに興味深いのは、日本の技術面接プラットフォームの動きです。
| プラットフォーム | スタンス | 具体機能・動き |
|---|---|---|
| HireRoo(ハイヤールー) | 検知・防止 | 不審挙動検知機能でタブ切替・コピペ・IPアドレス解析。コピペ箇所ハイライト |
| Track Test(ギブリー) | 検知・防止 | 2023年にアクションログ機能でコピペ・ChatGPT利用検出。2025年2月にWebカメラモニタリング機能で替え玉・外部デバイス検出 |
| paiza | AI活用教育 | AI使用ガイドは明示せず、「プロンプトエンジニアリングの基礎」講座を無料配信。採用テストのAI使用可否は明示なし |
プラットフォーム3社のうち、2社(HireRoo と Track)が完全に「検知・防止」方向、1社(paiza)が「AI活用教育」方向という分裂構造です。米国のように「AIを使う前提のモード」を正式機能として持つ日本の面接SaaSは、まだ存在していません。
実際、弁護士ドットコムは2025年3月に HireRoo を導入していますが、公式に「生成AIを用いた不正対策」を目的として明記しています。制度的には「AI使用 = 不正」という扱いがデフォルトなんですよね。
倒立構造: 制度より、候補者の方が先行している
ここが記事の核心です。
日本の採用側が沈黙し、プラットフォームが検知に振り切る一方で、候補者側はすでに米国並みに進んでいます。
| 指標 | 数字 | 出典 |
|---|---|---|
| 就活で生成AIを利用した経験(2026卒) | 66.6% | マイナビ キャリアリサーチLab |
| 企業のAI環境を「重視する」 | 58.2% | IDEATECH |
| AIを禁止/使いこなせない企業に「ネガティブ印象」 | 52.0% | IDEATECH |
| AI環境を理由に選考辞退の経験 | 6.8% | IDEATECH |
| AI環境を理由に内定辞退の経験 | 10.5% | IDEATECH |
| 合計(AI環境を理由に辞退経験あり) | 17.3% | IDEATECH |
「AIを使えない会社はお断り」のZ世代が、6人に1人いる。
正直に言うと、独立した今の僕も、この感覚にかなり近いんです。もし仮に今後どこかの企業に入る選択肢を検討するとしても、AI活用に積極的でない会社は、そもそも候補に入れないと思う。日常業務の9割をAIと共作している状態から、AI禁止の環境に戻るのは、たぶん想像以上にストレスです。Z世代の反応は、世代特有というより、AIを手足として使う生活をしている人間にとっての、自然な反応に近いんじゃないかと感じます。
これは制度が候補者の現実を追いかけられていないことの現れでもあります。応募者は毎日AIを使いこなし、就活でもAIを使う。なのに面接の場だけで「Webカメラ監視下で素の実装力を見せろ」と求められる。このズレが、辞退率という数字で可視化されている。
米国が「企業が先に解禁して、候補者と制度を一致させた」のに対し、日本は「草の根のほうが先行して、制度が追いついていない」 倒立構造になっているわけです。
HireRoo CEO の折衷派発言 — 日本側の芽
ただし、日本側の採用テック業界にも、許可派の芽はあります。
HireRoo の葛岡宏祐 CEO は、別のインタビューでこう発言しているんですよね。
実務でChatGPTを使うなら、ChatGPTを使って解ける力も評価に値する
HR NOTE の葛岡氏論考でも、禁止でも全面許可でもなく、「課題を構造化し、AIを活用して価値を生み出せるかを評価する仕組み」が必要、という折衷派の論を展開している。
自社プロダクトは検知機能を売りにしているが、同じ経営者が「将来的にはAI使用プロセスを提出させる試験」への進化もあり得ると示唆する — この矛盾そのものが、日本の採用現場のねじれを象徴していると思うんです。
レバテック数字: プログラミング重要度は下がり、プロンプトが上がった
候補者側の動きだけでなく、採用担当者側の意識も確実に変わっています。
レバテック IT人材白書 2026(採用担当者1000名+IT人材3000名の調査)によれば、AI出現前(2022年11月以前)と比べて「エンジニアに求めるスキルが変化した」と答えた採用担当者は約4割、5000人以上の大企業に限れば約7割に及びます。
重要度が上がったスキル:
| 順位 | スキル | 割合 |
|---|---|---|
| 1位 | コミュニケーション | 48.3% |
| 2位 | プロンプトスキル | 38.5% |
| 3位 | ピープルマネジメント | 29.8% |
逆に重要度が下がったスキルの上位:
| 順位 | スキル | 割合 |
|---|---|---|
| 1位 | プログラミング | 26.0% |
| 2位 | 資料作成 | 24.6% |
| 3位 | 予算管理 | 21.6% |
プログラミングの重要度が下がるという数字が、採用担当者の4人に1人から返ってきている時点で、いままでのポートフォリオ評価基準は確実に揺らいでいます。
Salesforce のジュニア逆転現象
そして採用現場の変化は、入社後にも波及しています。
Salesforce の Engineering ブログには面白い観察が載っていて、ジュニアメンバーがAIツールを「当然のワークフローの一部」として直感的に採用し、AIテスト生成による高コードカバレッジでシニアの方が驚く逆転現象が起きている、と。従来のメンタリング階層が構造的に反転する事例です。
Stack Overflow の分析でも、AIが Gen Z のジュニア開発者のキャリアパスを根本的に変えている、と指摘されている。
日本でも、以前書いた「教えるのが上手い人は何が違うのか」 で触れたように、「AIを相棒として使える人」は知識の呪いを外側からバイパスできる。組織内で「教えられる側」が「教える側」を逆転する事例が、これから国内企業でも増えていくと思うんです。
じゃあ、就活生は何を見せればいいのか
ここまでの整理を踏まえて、「草が全部AI」世代の就活戦略を、僕なりに整理してみます。
AIを使ったこと自体は、もう隠す必要がない(むしろ隠すほうがリスク)。しかし見せるべき中身は、従来のポートフォリオとは違います。
| 従来のシグナル | AI時代のシグナル |
|---|---|
| 草の多さ | 課題設定と解決プロセスの質 |
| 実装量・コード量 | AIとの協働ログ(README、記事、動画) |
| 個人の実装力 | 判断根拠とトレードオフの明示 |
| アルゴリズム暗記 | プロダクト思考(保守性・障害モード) |
ポートフォリオで「なぜこの技術を選んだのか」の判断根拠を語る重要性は、Qiitaの議論でも以前から指摘されてきたポイントです。AI時代においては、この判断根拠の記述そのものが強力なアピールになる。AIに何を任せ、何を採用し、何を却下したか。そのプロセスこそが「あなたの仕事」になっていきます。
見せ方は GitHub の README に限らず、もっと柔軟でいいと思うんです。例えば、このサイト(KaleidoFuture)のように、AIと一緒に考えたことをジャーナルにして発信するのもひとつの選択肢。記事自体が「どこまでAIで、どこから自分の判断か」の実演になるので、コミット履歴の草よりむしろ強い証拠になる場面もあります。note、Zenn、Qiita、YouTube、なんでもいい。自分の思考のログが残る場所を持っているかどうか、が見られる時代だと思います。
要するに、「作ったもの」より「作る過程での決断」を可視化する時代に入ったわけです。
「草の向こう側」を見る仕事 — 自分の草を数えてみた
最後に、ここまでの整理を繋げて、個人的な話をします。
ここまで見てきたとおり、日本の大手企業は社内ではAIを推進しながら、面接でのAI使用ポリシーだけを沈黙し続けている。主要な技術面接SaaSはむしろ検知方向に舵を切り、一方で候補者の66.6%は就活でAIを使い、17.3%はAI環境を理由に辞退している。採用側と候補者側の間に、はっきりとした温度差が生まれている。
採用現場の沈黙は、たぶんこのギャップの投影でもあります。AIを許可すべきか、禁止すべきか。この問いに答える前に、「僕ら自身がAIとどう付き合っているか」を採用側が先に言語化する必要がある。でも多くの企業は、まだそれができていない。
一方で、就活生たちはもう答えを出している。17.3%がAI環境を理由に辞退したという行動が、それを雄弁に物語っている。そしてさっきも書いたように、AIを日常的に使っている人間にとって、この感覚は世代の話じゃない。独立して9割以上をAIと共作している僕自身も、同じ方向を向いている。答えが先にあって、問いが追いついていない構造です。
独立してAIの活用を検証している中で、「これ、どこまでAIで、どこから僕か」と自問する場面もとても増えている。自分がエンジニアを採用する立場になったら、たぶん「どの判断が誰のものか」を見る目を持ちたくなる気がしますね。
ちなみに、試しに僕自身の公開・非公開 GitHubリポジトリをざっと集計してみたんです。全1,299コミットのうち、コミットメッセージに Co-Authored-By: Claude が明示されているものは 997件、割合にして約76.7%。GitHub 全体の Claude Code 比率 4% に対して、僕ひとりで約20倍の比率でした。独立後に始めたプロジェクトに限れば、ほぼ全件で90%超です。その草自体が、もう僕とAIの共著になっている。
草の濃淡ではなく、草の向こうで何を考えていたか。そういう評価軸に移っていく流れは、たぶん止められないと思います。
FAQ
GitHubのコミット履歴がAI製だと、就活で不利になりますか?
不利になるかどうかは、応募先の企業のスタンスによります。米国大手(Meta、Google、Rippling等)は「AI使用を許可」の方向、日本の大手はほぼ沈黙、日本の技術面接SaaS(HireRoo、Track Test)は検知する方向、とバラバラです。ただし「AIを使ったかどうか」より「どう使ったか」を説明できるかが勝負どころ。AI利用の過程と判断根拠を README や面接で明示できるなら、むしろアピールになります。
日本の大手企業が面接でAI使用を明示しないのはなぜですか?
一次情報からは読み取れませんが、構造的な推測としては、(1) 公式に許可すると既存社員や前年応募者との公平性問題が起きる、(2) 検知技術が未成熟な段階で許可範囲を定義するのが難しい、(3) 日本型雇用の「素の能力を測る」文化が残っている、あたりが絡んでいると思われます。一方で候補者側の 17.3% が辞退経験ありという数字を考えると、沈黙し続けること自体が採用機会の損失になっている可能性もあります。
AIを使わずにコミットを積んだポートフォリオは価値がないんですか?
価値がなくなるわけではありません。ただし「草の多さ」単体での評価は相対的に下がっています。レバテックIT人材白書2026では採用担当者の26%が「プログラミング重要度が下がった」と回答。プログラミングそのものより、課題設定・プロンプト設計・AI協働力が評価軸として上がっているので、AIを使わない場合も「なぜ使わなかったのか」の判断根拠が問われます。
日本の技術面接SaaSはAIを検知していますが、就活生はそれでもAIを使うべきですか?
使うべき局面と使うべきでない局面を分けるのが賢明です。面接時の技術テストで「AI使用禁止」と明示されているなら守るべきですし、守らないと不正扱いになります。しかし事前の学習、ポートフォリオ制作、自己PR資料作成、面接対策などでは積極的に使っていい。試験中のAI使用と、それ以外のAI活用は明確に分けて考える必要があります。
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