「AIエンジニア」って、結局何なんでしょう。
最近ずっと、この問いが頭から離れません。クライアントへの提案書に「AI × Webエンジニア」と書く。自己紹介で「AIを活用した開発をしています」と言う。でも、その「AI」が指すものが、場面によってぶれるんですよね。
プロンプトエンジニア? 機械学習エンジニア? AIインフラエンジニア? LLMアプリ開発者?
エージェント経営の記事では「AI社員を雇って会社経営してみた」と書きました。人間の仕事は何%かの記事では「95%はAIの仕事」の内訳を分析しました。どちらも「AIとどう働くか」の話です。でも、そもそも「AIと働いている僕」は何者なのか。そこがずっと曖昧だった。
今回はこの問いに正面から向き合ってみます。業界の定義を調べ、定義の穴を見つけ、新しい名前を提案する — という流れです。
業界の定義を調べてみた
まず、「AIエンジニア」がどう定義されているのかをリサーチしました。
Swyxの「Rise of the AI Engineer」
2023年、Swyx(Shawn Wang)がLatent.Spaceで発表した論文が、この職種名を決定的にしました。彼の定義はシンプルです。
APIラインで分ける。
APIの上で、既存のモデルを活用してプロダクトを構築する人 = AIエンジニア。APIの下で、モデル自体を開発・訓練する人 = MLエンジニア。
比喩で言うなら、MLエンジニアがエンジンを作る人で、AIエンジニアはそのエンジンを載せた車を設計してユーザーに届ける人。Swyxは「AIエンジニア4人にMLエンジニア1人」という推奨比率まで示しています。
Karpathyの「Software 3.0」
Andrej Karpathyは、ソフトウェアの3つの時代を整理しています。
– Software 1.0: 人間が書く明示的なコード
– Software 2.0: ニューラルネットワークの学習済みウェイト
– Software 3.0: 自然言語によるプロンプト
3.0の世界では、「コードを書く」のではなく「プロンプトで指示する」のが開発行為になる。Karpathyは「Prompt Engineerは誤解を招く名前。プロンプトだけでなく大量のグルーコードとインフラが伴う。”AI Engineer”は使える名称かもしれない」と述べています。
日本での状況
厚生労働省の職業情報サイト(job tag)には、AIエンジニアが正式に職業として登録されています。ただし定義は「AIを使ったシステムを開発したり、AIに蓄積されたデータを解析したりする専門職」で、Swyxの狭義な定義より広い。
日本ではAIエンジニアがMLエンジニアやデータサイエンティストを包含する上位概念として使われる傾向があるんですよね。そして2026年3月には、SF Standardが「’Engineer’ is so 2025. In AI land, everyone’s a ‘builder’ now」と報じている。職種名自体が流動化している最中です。
定義の穴を見つけた
ここまで調べた上で、ふと気づいたんですよね。僕はClaude Codeを毎日使っていて、エンタープライズ開発をしているフリーランスの友人はCursorを主力にしている。どちらもAPIの上でプロダクトを構築しているので、Swyxの定義では「AIエンジニア」に該当するはずです。
でも、そこでひとつの問いが浮かびました。
「2020年ごろに構築したと考えてもおかしくないプロダクトでも、AIエージェントで開発していたらAIエンジニアの実績になるのか?」
たとえば、普通のWebアプリケーション。AI機能は一切入っていない。でも、Claude CodeやCursorを使って開発した。これは「AIエンジニアの仕事」なのか?
2つの見方ができます。
– プロセス基準: AIエージェントを使って開発した → AIエンジニアの実績
– プロダクト基準: 成果物にAI機能が含まれていない → AIエンジニアとは言いにくい
どちらも一理あるんですが、プロセス基準で見ると、ほぼ全てのエンジニアが「AIエンジニア」になってしまう。2026年の今、何らかのAIツールを使わずに開発している人の方が珍しいですよね。
逆にプロダクト基準で見ると、「AIで作っているが、作っているもの自体はAIではない人」の居場所がなくなる。
この空白を、既存のどの職種名もカバーしていませんでした。
名付けてみた: AIAgenteer
この空白を考え続けた結果、ひとつの造語にたどり着きました。
AIAgenteer(エーアイ・エージェンター)。
– AI: 領域をAIに限定する
– Agent: エージェント活用を明示する
– -eer: Engineer(エンジニア)の系譜に位置づける
ちなみに「Agenteer」で検索すると、Agenteer.comというサービスが既に存在しています。Charles Shen氏が運営するAIエージェントエンジニアリングのプラットフォームです。ただし、あちらはAIエージェントを「構築・デプロイする」サービスの名称であって、職種名としてのAIAgenteerは誰も提唱していませんでした。サービスとして名前が成立しているということは、この領域が注目されている裏付けでもあります。
定義はこうです。
AIコーディングエージェント(Claude Code, Cursor等)を活用して、ソフトウェア開発ライフサイクル(SDLC)を回す人。
広義の「AIエージェント活用」— Zapier AIやノーコードBot、ChatGPTに質問するだけ — は含みません。コーディングエージェントを使って、設計・実装・テスト・デプロイといった開発プロセスを回している人。それがAIAgenteerです。
ここで面白いのは、同じAIAgenteerでも「委任度のグラデーション」があることです。
僕はClaude Codeを使っています。AIコーディングツールの比較記事で書いた通り、Claude Codeは「丸投げ型」。タスクを指示して、AIが自律的にファイルを横断して修正する。僕の役割は方向性の決定と品質判断。
一方、友人はCursorを使っています。Cursorは「伴走型」。人間がコードを書きながら、AIが次の数行を先回りして提案する。ペアプログラミングに近い感覚です。
どちらもAIAgenteerですが、AIへの委任度が違う。Claude Code型は「現場監督」に近く、Cursor型は「共同作業者」に近い。この違いは、エンジニアの働き方のスタイルであって、職種の違いではありません。
でも、この名前には賞味期限がある
正直に言います。AIAgenteerという名前は、いずれ不要になります。
理由はシンプルで、全員がAIAgenteerになるからです。
Anthropicのレポートが示す通り、コンピュータプログラマーのタスクの75%はAIでカバー可能です。週刊ジャーナルでも、定型業務の求人が13%減る一方で、分析・技術・創造職は20%増えていると書きました。AIを使うエンジニアと使わないエンジニアの生産性の差は、もう無視できないレベルになっている。
いずれ、AIコーディングエージェントを使わずに開発すること自体が「特殊」になる。
そのとき名前がつくのは、AIAgenteerではなく「AIを使わないエンジニア」の方です。
Handcoder。Manual Engineer。Organic Developer。
これは、オーガニック野菜と同じ構造なんですよね。かつてはすべての野菜が「普通の野菜」でした。農薬が普及したあと、農薬を使わない方に「オーガニック」というラベルがついた。デフォルトが変わると、ラベルは逆側に移動する。
携帯電話の歴史がまさにそうでした。かつてはすべてが「携帯電話」だった。スマートフォンが登場して「スマホ」という新しい名前がついた。そしてスマホがデフォルトになったとき、名前がついたのは逆側 — 従来の携帯電話の方でした。「ガラケー」。ガラパゴス諸島のように独自進化して世界標準と乖離した、という皮肉を込めた名前です。今、わざわざ「スマートフォン」と呼ぶ人はほとんどいない。ただの「スマホ」、あるいはただの「電話」。区別する必要がなくなったからです。
僕の予測では、2030年頃にこの逆転が起きます。
だからこそ今、記録しておく
じゃあ、賞味期限があるなら名前をつける意味がないのか。僕はそうは思いません。
名前は「過渡期の翻訳装置」です。
今この瞬間、「AIを使って開発しています」と言ったとき、相手が想像するものは人によってバラバラです。ChatGPTにコードを質問している人を思い浮かべる人もいれば、自律型エージェントにプロジェクトを丸投げしている人を想像する人もいる。
「AIAgenteer」と言えば、少なくとも「AIコーディングエージェントを使って開発プロセスを回している人」という像が伝わる。過渡期だからこそ、翻訳装置としての名前が機能するんですよね。
エージェント経営の記事で、僕は155業界を分析して「エージェント経営は稼ぐ手段ではなく、複雑な一人経営を整理するOSだ」と結論づけました。AIAgenteerも同じです。それ自体が価値ではなく、自分が何者かを伝えるための道具。
そしてもうひとつ。このジャーナルの価値は「その時どう考えていたか」を記録することにあると思っています。初回の記事で「日々の探求や気づきを、できるだけ正直に書いていく」と書きました。
2030年に「AIAgenteer? ああ、そんな言葉あったね」と振り返るとき、この記事が残っている。「あの時は、職種の名前すら定まっていなかったんだな」と。それ自体に価値があると思うんです。
解説ガイドの記事で、僕は「95%以上はClaude Codeの仕事」と書きました。人間の仕事は何%かの記事では、68件の人間の介入を分析して「時間で見ると60〜70%がAI、30〜40%が人間」と結論づけた。そして「人間の仕事はなくなるのではなく、上流に移動していく」とも。
AIAgenteerは、まさにその「上流に移動した人間」の名前です。コードを書く人ではなく、AIに何を作らせるかを決める人。品質を判断する人。方向を定める人。
いずれこの名前は消えます。でも、名前が指し示していた「AIと人間の新しい関係」は消えない。
まとめ
– 「AIエンジニア」の既存定義(Swyx、Karpathy等)には、「AIで作っているが成果物はAIではない人」という空白がある
– この空白を埋める名前として AIAgenteer を提案する。定義は「AIコーディングエージェントを活用してSDLCを回す人」
– 同じAIAgenteerでも、Claude Code型(高い自律性)とCursor型(ペアプログラミング的)で委任度のグラデーションがある
– ただし、この名前には賞味期限がある。全員がAIAgenteerになれば、逆に「AIを使わないエンジニア」の方に名前がつく
– 名前は過渡期の翻訳装置。2030年に振り返ったとき「あの時はこう呼んでいた」が残ることに意味がある
あなたは、何者ですか?
もしこの問いにすぐ答えられないなら、たぶん僕と同じです。定義が追いついていない場所に、今いるということ。でも、それは悪いことじゃない。名前がつく前の場所にいるということは、名前をつける側に回れるということでもありますから。
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